消化器外科専門医のブログ

消化器外科を専門にする中堅医師です.消化器(食道,胃,大腸,肝臟,胆嚢・胆管系,膵臓)のがんや手術を要する急性疾患,緩和医療などの診療を行っています.特に肝臓外科が専門分野です.日々の学びや,自分の成長につながること,頭のなかで考えたことを中心に記しています.

オプジーボの副作用 一般的な抗がん剤との違い

 

目次 

 

一般的な抗癌剤の副作用

前述したように、一般的な抗癌剤の副作用は、活発に細胞分裂する組織が傷害されることによって起こることが多いです
 
 
血液細胞は日々増殖し、中でも白血球は細菌やウイルスなどの外敵の侵入に備えています。
それが抗癌剤によってダメージを受けると、普段は3000~8000個(1立方メートルあたり)程度ある白血球が、2000個を下回ることもあります。
白血球の成分のうちで、おもに細菌を攻撃する『好中球』と呼ばれる成分がおよそ50%前後あるのですが、白血球が1000個を下回り、好中球が500個を下回ったときに、37.5度以上の発熱もあるとこれを『発熱性好中球減少症』と呼び、危険な状態と考えてすぐに治療を行います。
 
また、抗癌剤の副作用でイメージとして患者さんやご家族の方がお持ちなのが、『嘔気・嘔吐』で食事が全く取れない、というものです。
 
そこまでひどい症状にはならないのですが、この症状というのは、『消化管の粘膜』がダメージを受けて起こります。
消化管の粘膜は、活発に分裂して新陳代謝が行われており、抗がん剤のダメージを受けやすいのです。
 
胃や腸の粘膜に起こると、『嘔気や嘔吐』、あるいは『下痢』が起こりますし、
口の粘膜がダメージを受けると、『口内炎口角炎』などが起こります。
それらの結果、『食欲不振』につながることがあります。
 
ちなみに、よくドラマや映画などで強調されるのが、抗がん剤の点滴をしている患者さんが、トイレで苦しんで吐いている姿ですよね。
 
少なくとも消化器外科領域で使用する抗がん剤では、このように吐き続けて苦しむようなことはほとんどないと思います。
それほど吐いているとしたら、量が多すぎるので減量したり、種類が適切でないので変更したりします。
抗がん剤は、基本的にある程度は長い期間、一定量を投与しないと効果は出ないので、
しんどすぎる抗がん剤のメニュー(レジメンと言います)は意味がないのです。
 
 
あるいは、全身のだるさ(倦怠感)や疲れやすさ(疲労感)というのもあります。
これがなぜ起こるのかはよくわかっていないのですが、一般的な副作用としてよく起こります。
投与後2〜3日現れて、徐々に楽になってくることが多いです。
 
その他にも、抗癌剤によって特徴的な症状を起こすものがあり、
脱毛(タキサン系)や手足のしびれ(タキサン系、オキサリプラチン)、手足の痛み(手足症候群:カペシタビン、マルチキナーゼ阻害薬 ネクサバール、レゴラフェニブ)、皮膚障害(皮膚の乾燥や爪の炎症、広範囲のニキビなど)、傷の治りが悪くなる(血管新生阻害薬)、間質性肺炎、などがあります。
 

オプジーボの副作用が起こる機序

それに対して、オプジーボのような免疫チェックポイント阻害薬では、そもそも抗がん剤としての効き方が違うので、副作用も全く異なったものになります。
 
以前の記事に書いたように、もともと自分に備わっている免疫細胞の、『ブレーキ』を外すことで、自分のがん細胞を攻撃させるという薬です。
免疫の『ブレーキ』が外れると、何が起こるでしょうか?
 

自分の免疫細胞が、攻撃するべきではない細胞を攻撃することで、正常な細胞がダメージを受け、場合によっては破壊されてしまいます。

このような病態を『自己免疫疾患』といいますが、オプジーボなどによって起こる副作用を『自己免疫疾患関連副作用(irAE)』と呼びます。

 
 
起こる可能性でいうと、体中のどの細胞がターゲットになってもおかしくないので、それは多彩なものがあります。
しかし起こりやすいものと起こりにくいものがあるようで(理由はあまりわかっていません)、やはり頻度の高いもの、あるいは重症化する危険なものを特に注意することになります。
 

オプジーボの副作用の種類

間質性肺炎甲状腺機能低下症、筋肉痛・関節痛、あるいは肝機能障害、大腸炎などがあります。
安倍総理がなられたことで広く知られるようになった、『潰瘍性大腸炎』という病気がありますが、これも自己免疫が関与するとされており、これに似た大腸炎が起こるのです。
 
これら以外にも、重症筋無力症や1型糖尿病、血小板減少性紫斑病、血液貪食症候群、下垂体機能低下症、副腎機能低下症、神経障害、腎障害、 脳炎、高度の皮膚障害、など非常に多彩です。
 
これらの副作用は、一般的な抗がん剤と比べると、かなり異なったものになります。
これらについて、どのように起こるのか、どのように検査して、治療するのかなどを、引き続き考えていきます。
 

進行胃がんの抗癌剤治療 オプジーボ(免疫チェックポイント阻害薬)について

進行胃がん抗癌剤治療には、現在保険適応となっている薬剤が以下のように比較的多くあります。
どの薬剤を選択するべきか、という方針は胃癌治療のガイドラインがあるので、基本的にそれに沿って行います。
 
※ ただし、ガイドラインにも明記してあるのですが、こちらに載っていないものを『推奨しない』わけではありません。載っていないものを用いることが妥当な場合もあります。
 
大きく分けて、以下のように6種類あり、それらを使い切ることが望ましいと考えられています。
 

・フッカピリミジン系:5-FU、S-1、カペシタビン(+ヌクレオシド系:ロンサーフ) 

・プラチナ系:シスプラチン、オキサリプラチン 

・タキサン系:ドセタキセル、パクリタキセル、ナブパクリタキセル 

・トポイソメラーゼ系:イリノテカン 

・分子標的薬:トラスツズマブ(HER2(+)の場合)、血管新生阻害薬 ラムシルマブ 

・免疫チェックポイント阻害薬:ニボルマブ

 

効果、副作用、どのような臨床試験のデータが有るか、などによって使用する順番などの優先順位がありますが、それらの考え方は、別の機会にまとめます。
 
今回は、これらの中で免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブオプジーボについて、特に実際に使用する際の副作用についてまとめようと思います。
 
 
というのも、この『免疫チェックポイント阻害薬』というのは、従来のいわゆる『抗がん剤』とは種類が異なります。
 
抗がん剤の多くは、がん細胞のように活発に細胞分裂する細胞に作用して、その細胞に直接ダメージを加えます。
よって体の正常な細胞の中で、活発に増殖する部分にもダメージが来てしまうのです。
例えば白血球や赤血球などの血液細胞は、活発に細胞分裂を繰り返して、増殖していますが、それらがダメージを受けることで白血球が減少して細菌やウイルスに対する抵抗力が落ちてしまったり、貧血になってしまったりします。
 
一方で、免疫チェックポイント阻害薬は、もともと備わっている『自分の腫瘍に対する免疫』を活性化することによって、癌を攻撃するのです。
 
この『免疫の活性化』ですが、実際は免疫チェックポイントと呼ばれる、免疫の『ブレーキ』のひとつであるPD-1をブロックします。
少しわかりにくいところですが、免疫には活性化するための『アクセル』と、過剰反応しないための『ブレーキ』とが備わっています。
過剰反応すると、アレルギーが起こってしまったり、あるいは自己免疫疾患とよばれる、様々な病態を引き起こしてしまうからです。
 
この『ブレーキ』をブロックするということは、腫瘍に対する免疫が活性化して、癌を攻撃してくれるのですが、
一方で、自分自身の体を攻撃してしまう『自己免疫疾患』のような副作用も出てしまうことがあるのです。
 
 
どのようなものがあり、どんな症状がでるのか、
どのようなタイミングで、どんな疾患が、どんな発生頻度で起こるのか、
またそれをどう疑い、どんな検査をいつ行うべきか、その検査結果をどう判断するか、どう治療するか。
 
それらの実践的な内容について、まとめていきたいと思います。 

新型コロナウイルス クルーズ船内の現状

https://ceron.jp/url/www.youtube.com/watch?v=W3X3RSmf7ds

ダイヤモンド・プリンセスはCOVID-19製造機。なぜ船に入って一日で追い出されたのか。(kentaro iwata) - YouTube

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感染症の第一人者である岩田先生の緊急発信です。
この方の著書はいくつも読んでいて、信用できる方だと思っています。

実は私もこのDMAT隊員として、派遣が検討されていましたが、あまりに不確実で不透明なので、危なすぎると思い断っていました。

これが現状のようです。
全くこの場面で、「エラい人たち」は何を重んじようとしているのでしょうね…

180821 アウトプット大全 読後の感想

 

精神科医の樺沢紫苑先生の著書である
「アウトプット大全」という本を読みました
 
とてもためになることが多く,即実践可能ですので,
とてもお薦めです.
 
これまでの自分の学習が,「インプット」中心であったことがよくわかり,
「アウトプット」することこそが,重要な学び方であることが腑に落ちました.
 
読者のキャンペーンに応募するため,感想を「アウトプット」したいと思いますので,
感想をここにあげさせてもらいます.
 
ここから
 
 
これまで仕事や人生において,成長・成熟したい気持ちが強く,
読書を中心とした「勉強」をしてきましたが,なかなか思ったような成長が得られませんでした.
 
樺沢さんの動画によく出てくる,「アウトプットこそが重要である!」という話を聞いて,
そんなものなのかなあ,と思っていたのですが,
今回の「アウトプット大全」を読んで,「アウトプットのないインプットは意味がない!」と,自分の中でも確信に変わりました.
 
気づいた点を上げればキリがないほど,さまざまな気付きが得られました!
とくにポジティブな気付きと,自分のマイナス点の気付きについて,
アウトプットさせてもらいます.
 
 
ポジティブな気付き
 
トレーニングその1 日記を書く
簡単で最高のアウトプット・トレーニング法
 
実は自分は日記を書くことは習慣としてしています.
内容としては,何か自分の感情がざわついたときに,「これはなぜこのように感じたのだろうか?」と
内面を深く覗いて見るようなこと,失敗の原因を追求するようなことを中心にしていました.
 
ただ,これだけでは後ろ向きな内容になってしまい,なんだかもったいないようにも思っていましたので,
これまで書いてきた内容に加えて,本に載っていたように,
・「楽しい」を発見することと,
・ネガティブをポジティブに変換すること
を特に意識して,付け加えたいと思います.
 
さらには,トレーニングその2 健康について記録する
で「体重」「気分」「睡眠時間」を毎日記録
 
これも日記を書く習慣があるので,簡単にできます.
睡眠時間は,特に最近このままの5時間睡眠では体がもたないことが実感されますので,
最低6時間は確保し,できれば樺澤先生がおっしゃるように7時間を確保したいと考えています.
 
 
ネガティブな気付き
 
03 話す3
悪口はネガティブ人生の始まり
 
自分はまさにここにあるように,他人の欠点や失敗などにすぐに目がいってしまい,
言わないでおこうと思っていてもつい言ってしまう,あるいは愚痴ってしまうことがあります.
なんとか直したいと思っているのですが,ネガティブなことを言うこと自体がアウトプットそのものですので,
自分でうまく「欠点を指摘」する訓練をしているのですね...
 
そして本人の耳には入らないようにしても,それが「非言語的な」メッセージになり,言葉に出さないことも伝わってしまうとのこと.
これはまさにそうであろうことを実感しています.
本当に,「非言語的に」「言葉に出さなくても」伝わるように表現してしまっていることを,自覚しています.
 
これはもう,「絶対に悪口は言わない」と固く決心するしかないですね.
ようやくそれに気が付き,決心することができましたので,もう今からは「悪口を言わない」ことを肝に銘じます.
 
 
これらの気付きから得られたアウトプットは,いずれにしても十分継続可能と考えます.
日常の仕組みに組み込んで,根性や意志力のみに頼るのではなく,
習慣として当たり前のように,アウトプットし続けられるようにします.
 
ありがとうございました.
 
 

胆嚢癌 術式選択と深達度診断 180608

 

術式選択

  • 深達度がM, MPであれば胆嚢内に限局するため,胆嚢摘出でよい.
  • 肝床部のSS腫瘍であれば,切除マージンを確保するために,肝床切除を追加する.実際にはMPとSSの判断がむずかしいこともあり,MPの診断であっても肝床切除を行うことがある.
  • しかしコンセンサスの得られた術式はなく,SS浸潤であれば肝内転移の制御目的にS4a+S5切除を行うこともある.これによって予後を改善するといったエビデンスはない.
  • SEで肝床部に浸潤があれば,S4a+S5切除あるいは拡大右葉切除が選択される.
 
リンパ節郭清
  • Mであればリンパ節転移はない.
  • MPではリンパ節転移は少なく,郭清を省略することも多いが施設の判断による.
  • SSであればリンパ節転移が40~60%,SEでは75%程度見られることから,D2郭清(No.8, 12, 13)が行われることが多い.
  • こちらに関しても,郭清により予後が改善するエビデンスはないのが現状.
  • 壁深達度の診断が重要だが、診断が難しい。
 
深達度と術式,リンパ節郭清の表

 
 
診断のポイント
  • 胆嚢の腫瘍,炎症性病変,コレステロールポリープはいずれも造影される
  • 腫瘍性病変は単純CTで描出されるのが特徴
  • 胆管の拡張を伴わない非拡張型の膵管胆道合流異常に胆嚢癌の発生が多い
  • 20mm以下のⅠp病変はM, MP癌が多くIs型ではSS以深と考える. 
  • 20mmをこえると明らかな漿膜外浸潤がなければ,SSと診断する.
  • 平坦型胆のう癌の診断は困難である.CT・MRI所見としては,不均一な壁肥厚,粘膜面の不整,壁構造の乱れなどであるが, 多くの場合は胆のう壁の層構造の描出は困難である。
  • 最も診断能の高いのはEUSであるが,それでも診断は難しく,総合的に判断せざるを得ない.

ラパロ大腸切除の勉強会 振り返り 180519

先日,ラパロ大腸切除の勉強会がありました.
 
そこで気づいたポイントを,簡単にアウトプットしておきます.
 
 
・ビデオ審査をされる先生は,まず全体を通して見た印象が大事であって,
この先生は後輩を育てられるだろうか?』という視点で見ているそうです.
 
そしてその印象からさかのぼって,技術点を振り分けると言っておられました.
 
 
・いい視野ができている = 良い指導をしている,ということ
 視野を作るときは,何度か術者が細かく持ち替えてから,いい場所を持たせる,といった見せ方も必要です.
 
 
ゆっくりとした鉗子の動きで,最短距離で目的地に到達する訓練をする
 ゆっくり動かしたときにこそ,色んな情報が得られる.
 
 
・弱い脂肪組織ではなく,腹膜や血管を把持すると,出血したりちぎれたりしにくい.
 
 
・組織を直接把持せず,ラパロガーゼで柔らかく手前に引いたり,上に押し上げたりすることで,視野を展開する.
 
 
・外側剥離の際に腸間膜をボロボロにすると,腫瘍学的にも問題がある.
 腸間膜のツルッとした面を大切にし,ていねいにキープする.
 
 
・直腸間膜の切離は,まず前面をピオクタニンでマーキングし,
 次に左側で腸管壁を露出させ『受け』を作っておく.
 その後で右から行うと,連続させるゴールが見える.
 
 
・カメラの出し入れは編集は可能とのことでした.
 ただしあまり好ましくはないので,コメントで「顔が写ったので』などを書いておく.
 
・ドライボックスでは『速さ』だけではなく,ていねいな洗練された動きを追求することも大事.
 ミラーイメージの練習も有効.
 
 
技術の問題もそうですが,意識するべき点など,普段忘れがちなポイントなどに多くの気づきがありました.
 
すぐに実践できることが多いので,来週からの手術で,術者,助手ともに活かしていきたいです.

180517 胃癌の術後補助化学療法 〜胃癌治療ガイドライン2018年改定より〜

胃癌の5年生存率を示します.
 
全症例:74.5%
ステージ1:98.1%
ステージ2:66.4%
ステージ3:47.3%
ステージ4:7.3%
 
当然ですが,癌のステージが上がるにつれて,術後の再発が増え生存率が下がります.
そこで再発率の高い患者には,再発予防のための抗癌剤治療(補助化学療法)を行うことがあります.
 
胃癌の補助化学療法は,2006年に行われた臨床試験(ACTS-GC試験)でS-1の有効性が確認され,日本での標準治療となりました.
 
5年無再発生存期間 65.4% vs. 53.1% (HR 0.653)
5年生存率 71.7% vs. 61.1% (HR0.669)
 
 
また2012年に韓国で行われた臨床試験(CLASSIC試験)では,カペシタビン+オキサリプラチン(CapeOX)の有効性が証明されました.
 
 
3年無再発生存期間 74% vs. 59% (HR 0.56)
5年生存率 78% vs. 69% (HR 0.66)
 
これを踏まえて,2015年から日本でも胃癌の補助化学療法にオキサリプラチンが承認されました.
 
 
現在のガイドラインでは,
StageⅡ,ⅢA,ⅢB症例で,根治A,B手術を受けた患者に対して,補助化学療法を推奨しています.
 
・StegeⅡの場合はS-1単独療法を推奨する.
・StageⅢの場合は患者ごとにリスクベネフィットバランスを考慮し,S-1単独療法またはCapeOX療法などのオキサリプラチン併用療法を選択することを推奨する.
 
現時点では,S-1療法とCapeOXやSOXを直接比較した試験がないため,患者ごとにどの治療を行うかは,明確な基準がないのが現状です.
 
様々な解析などによって推測されているのは
・StageⅡではS-1が良好であり,S-1単剤でよい.
・分化型にはCapeOX,未分化型にはS-1が有効と言える.
・StageⅢは予後不良であり,オキサリプラチンの上乗せ効果を期待して,症例を選んでCapeOXやSOXを考慮する.
 
オキサリプラチンにより末梢神経障害やアレルギーが起こることがあり,またカペシタビンにより手足症候群のリスクがあります.
 
判断は簡単ではありませんが,少しでも再発リスクを抑えたいと願うのは,医者の立場からも,患者さんの立場からも,当然のことです.
 
日常生活を守りつつ,少しでも副作用から開放されるように,慎重に見守る必要があります.