消化器外科専門医のブログ

消化器外科を専門にする中堅医師です.消化器(食道,胃,大腸,肝臟,胆嚢・胆管系,膵臓)のがんや手術を要する急性疾患,緩和医療などの診療を行っています.特に肝臓外科が専門分野です.日々の学びや,自分の成長につながること,頭のなかで考えたことを中心に記しています.

肝性脳症の治療 160608

われわれ消化器外科の肝臓グループは,肝細胞癌の手術を多く行っていますが,

術後に腫瘍が再発して肝臓の多くの部分を占拠したり,あるいはもともとの肝硬変が悪化したりすると,

肝臓が正常に働くことができず肝性脳症という状態になることがあります.

 

高度の肝機能低下により体内のアンモニアが増加した結果,さまざまなレベルの意識障害が出現した状態と言えます.

 

このような状態になられるということは,全身状態も悪くあまり予後は見込めない状況です.

それに加えて何らかの意識障害が現れていますので,ご家族としても非常に動揺されていることが多いです.

 

そのような状況で,われわれはすみやかに適切な治療を行い,少しでも早く症状を改善してあげることをまず考えないといけません.

その上で,治療によってどのような経過になると思われるかを理解し,

それを伝わるように説明するところまでが,まずやるべきことだと考えています.

 

まず前提として必要な知識というのがかかせませんので,一般的に行われている治療法をまとめました.

 

アンモニアの産生や吸収の抑制

アンモニア産生菌を抑制してアンモニアの産生を減少させ,さらに便通を促進することで腸管でのアンモニアの吸収を抑えます.

  • ラクツロース:モニラックシロップ30~90ml分3,ラグノスゼリー3~6包分3
  • ラクチトール:ポルトラック3~6包分3
  • 非吸収性抗生物質:カナマイシン2~4g/日

 

分枝鎖アミノ酸(BCAA)の補充

肝硬変では肝の線維化が進み,グリコーゲンの貯留が低下します.

加えてアミノ酸合成も減少するので,代償的に骨格筋でのタンパク分解が起こりアミノ酸が増加します.

そこでできたBCAAはエネルギー源として早期に分解され,BCAAの減少,芳香族アミノ酸(AAA)の増加がみられます.

血液脳関門を通過するAAAが増加すると,肝性脳症の原因と言われています

 

このようにBCAA/AAA(Fischer比)が低下している状況で,BCAAを補充することで,肝性脳症の症状が改善されます.

 

また純粋にアミノ酸が減少している(アルブミン値 3.5g/dl以下)ことも多く,腹水増加や浮腫の原因になりますし,そのような状態では予後も悪いことがわかっています.

 

経口摂取が困難な場合

 

経口摂取が可能な場合

  • アミノレバンEN,ヘパンED…BCAA+カロリーを含む製剤.食事が十分に取れないためBCAA以外にも補充が必要な方.
  • リーバクト…BCAAのみ.食事はできるのでBCAAのみ補充が必要な方.

 

追記です(2016.6.28).

BCAA製剤は,肝機能障害が高度に進行した状態では効果がないため,使用できません.

  1. 3度肝性脳症(傾眠あり.2度は見当識障害まで.)
  2. ビリルビンが3mg/dl以上
  3. 合成能が著しく低下