消化器外科専門医のブログ

消化器外科を専門にする中堅医師です.消化器(食道,胃,大腸,肝臟,胆嚢・胆管系,膵臓)のがんや手術を要する急性疾患,緩和医療などの診療を行っています.特に肝臓外科が専門分野です.日々の学びや,自分の成長につながること,頭のなかで考えたことを中心に記しています.

171029 直接ビリルビンの上昇

いまICUに,汎発性腹膜炎で手術をした重症患者さんがいます.
 
もうすぐ1週間になりますが,敗血症性ショックなどもあり,まだ人工呼吸管理,CHDF(持続血液透析)が必要な状態です.
 
数日前から徐々にビリルビンが上昇し,直接ビリルビンが優位で,トランスアミナーゼの上昇はありません.
 
エコー,CTでは肝内胆管の拡張はなく,薬剤性を疑いますが,見落としがないかという復習を兼ねてここにまとめておきます.
 
 
直接型優位の高ビリルビン血症 
 
まず胆管の狭窄による胆管拡張を伴う『閉塞性黄疸』と,胆管拡張を伴わないものに分けることができます.
これはベッドサイドでエコーでできますし,もちろん単純CTでも可能です.
 
後者はさらに肝逸脱酵素(AST,ALT)の上昇を伴う『肝実質性黄疸』と,胆道系酵素の上昇を伴う『胆汁うっ滞型黄疸』とに分かれます.
 
肝実質性黄疸は,各種ウイルス性肝炎やアルコール性肝炎,薬剤性肝炎などがあり,
胆汁うっ滞型黄疸薬剤性が主な原因となります.
また,敗血症に伴う高ビリルビン血症という病態もあるようで(類洞の炎症による胆汁排泄障害),とくに高齢者に多いとされています.
 
 

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直接型優位の高ビリルビン血症 
 
1.肝実質性黄疸(ウイルス性肝炎,自己免疫性肝炎,薬剤性肝障害,アルコール性肝障害, 肝硬変,転移性肝腫瘍など) 
2.肝内胆汁うっ滞型黄疸
急性:アルコール性,薬剤性
反復性:良性反復性,妊娠性反復性
慢性:原発性胆汁性肝硬変,原発性硬化性胆管炎,薬剤性,アルコール性)
3.閉塞性黄疸(悪性腫瘍,結石,炎症)
4.体質性黄疸(Dubin- Johnson 症候群,Rotot 症候群) 
5.その他(敗血症,血球貪食症候群,移植後拒絶,Graft versus host disease など)

 

現在できることは,

①原因となるような薬剤を中止,あるいは変更する.

②感染,炎症をできるだけ早急に改善させる.

③肝機能が低下してくれば,FFPによる凝固因子の補充

などになります.

 

①としては現在は使用している薬剤もずいぶん減らせましたが,鎮静のプロポフォールフェンタニルを少量のドルミカムに変更しています。

 

②はCTで液体貯留が残存していることがわかり、抗生剤で押さえ込めないようなら、経皮的ドレナージを要します。

 

心配な日が続きますが、1つずつ山を乗り越えて、何とか回復してくれるよう治療していきます。