171212 消化管穿孔など,腹膜炎に伴う敗血症性ショックや全身管理
われわれ消化器外科は,日常的に数多くの緊急手術を行っています.
その中には急性虫垂炎や急性胆嚢炎,鼠径ヘルニアの嵌頓など,術後の経過は比較的落ち着いているものも多いのですが,腹膜炎によって全身状態が非常に悪くなってしまう方もおられます.
例えば消化管穿孔では,胃・十二指腸潰瘍や小腸、大腸の穿孔まで穿孔部位はさまざまですが,とくに下部消化管穿孔では汎発性腹膜炎から敗血症性ショックへ移行し,すぐに全身状態が悪化します.
緊急手術の時点ですでにショック状態になっている方も多いのですが,術中に血圧が下がってしまい,術後に急遽ICUへ入ることになる方もおられます.
そこまで状態が悪くなってしまうと,病態は複雑かつ重篤であり,数多くの病態について考え,治療を行う必要があります.
今日はそれらの重篤な患者さんに対して行う、主にICUでの集中治療についてまとめます。
消化管穿孔など,腹膜炎に伴う敗血症性ショックや全身管理
- 感染・敗血症
- 循環動態の悪化,ショック状態
- 呼吸不全
- DIC
まず1.感染・敗血症に関してですが,これは手術によって感染巣,病変部分を除去し,腹腔内をドレナージすることが,何よりも重要です.
壊死したり穿孔している腸管は切除し,吻合ができない腸管や全身状態であれば,ひとまず人工肛門を作り,何とか手術を終えます.
大量の生理食塩水で腹腔内を洗浄し,ドレーンを留置します.
これにより,汚染した物質(おもに消化液や便汁です)をできるだけ除去して濃度を薄め,ドレーン留置によって,それ以上たまらないようにします.
一方で,すでに血液中に入り込み全身に広がっている細菌や,有害物質,またそれによって引き起こされた全身の炎症反応,いわゆるSIRSの病態に対する治療も必要です.
抗生物質は原則として,より広範囲の原因菌をカバーでき(スペクトラムが広い),抗菌作用が強いものを選択します.
通常はカルバペネム系の抗菌薬を,最大量で使用することになります.
全身状態の改善や術中の膿汁,血液の培養結果を確認して,より範囲の狭い抗生剤に変更していきます(de-escalation).
培養結果はすべての原因菌が必ずしも検出されるとは限りませんので,改善に向かっていることを確認してから変更するのが,より安全と考えています.
これら手術や抗生物質の投与は必須でcriticalなことですが,それらに加えてやっておきたいことがまだあります.
ひとつはPMXです.
ポリミキシンという物質によってエンドトキシンならびにその他「有害物質」を吸着・除去するという治療です.
これには明確なエビデンスはなく,本当のところ,何を除去することで全身状態が改善できているのか,はっきりとわかっていません.
ただし個人のこれまでの経験としては,PMX吸着療法によって生きるか死ぬかの瀬戸際の患者さんが,回復されたのを多く経験しています.
エビデンスがない以上,このPMXがなくてもそれらの患者さんは同じ転帰を得られたのかもしれませんが,こればかりは検証のしようがありません.
これまでの施設でこの治療をやってきたこと,一般的にも比較的広く行われていること,そして患者さんがギリギリの状況だからこそ,やらないという選択肢が取りにくいこと,などから考えてこの治療を選択しています.
やったほうがいいのかやる意味が無いのか,白黒はっきりさせてくれるエビデンスが出てほしいものです.
もうひとつは,免疫グロブリン製剤です.
これもエビデンスという点では明確ではないのですが,理論上もある程度の補助にはなるのかと思いますし,やらなかった時に救命できなければ,なぜやらなかったのかという後悔が残りますので,これもほぼ必ず使用しています.
2. 循環動態の悪化,ショック状態
敗血症によって全身血管の末梢血管が拡張することで,循環血液量が相対的に不足します.
また血管浸透圧が亢進することによって,血管内の血液が組織中に漏出していくことでも,絶対量も減少します.
腹膜炎の患者さんはこのようにして,敗血症性ショックと循環血液量減少性ショックが合わさった病態になられます.
敗血症性ショックの治療は,根本原因に対する治療を行うことが大原則であり,さらに末梢血管の拡張に対して,ノルアドレナリンを投与して末梢血管を締めて血圧を確保します.
それとともに,不足した循環血漿量を補充します.
これには細胞外液の補充を行う場合と,アルブミン製剤や場合によっては濃厚赤血球(RCC)や新鮮凍結血漿(FFP)を補充することがあります.
アルブミン製剤は低アルブミンによって浸透圧が保たれず,補充してもどんどん血管外へ漏出する病態を危惧した時に補充します.
また貧血がある場合はRCCを,DICなどによって凝固因子が不足している場合はFFPを補充します.
より『濃い』成分を補充したくなるのは,外科医の自己満足かもしれませんが,少なくともアルブミン製剤には、生存率を改善させるエビデンスはないようです.
いずれにせよ,画一的に判断することはできません.
論理的に考えて,どのような病態であれば,何を補充したほうがいいのか,その他の様々な状況も複合的に判断した結果,何を使用するのか,といった思考回路になります.
そこの判断基準に,何をどの程度の重みで用いるのか,といったところの問題であり,それはその医師のこれまでの教育や経験,知識,性格などのさまざまな意思決定基準に委ねられています.
私の場合は最近,コストをどの程度勘案するかで迷うことが多いですね.
もっと若い頃はそこはあまり考えていませんでしたが,最近では医療の現状や将来について無関心ではいられませんし,無尽蔵に資源を使うべきでもありません.
3. 呼吸不全
これはまず手術中の呼吸状態が度の程度安定していたのか、抜管できるのか、という点があります。
その時点では抜管できても、循環管理でボリュームをかなり多く負荷する必要があるかもしれませんので、リフィリングで胸水貯留が起こったり、無気肺や腸管麻痺による腹部膨満、強い創部痛などによって呼吸苦が強くなるかもしれません。
実際に呼吸状態が悪くなり、再度挿管が必要になることもあります。
そこまで行かない場合は、NPPVやnasal high flowといった選択肢もあります。
この辺りの詳細は、改めてまとめようと思います。
4. DIC
これについては、新しくなったガイドラインもありますので、詳しく今後紹介します。
このように、腹膜炎に伴うショック状態は病態が複雑に関連していますが、それぞれに分解することで、はっきりと見えるようになります。
理解の助けになってくれるとうれしいです。