消化器外科専門医のブログ

消化器外科を専門にする中堅医師です.消化器(食道,胃,大腸,肝臟,胆嚢・胆管系,膵臓)のがんや手術を要する急性疾患,緩和医療などの診療を行っています.特に肝臓外科が専門分野です.日々の学びや,自分の成長につながること,頭のなかで考えたことを中心に記しています.

180406 経肛門的腫瘍切除

今日は『経肛門的腫瘍切除術』についての内容です.
 
一般的に直腸の腫瘍に対する手術としては,多くは低位前方切除や腹会陰式直腸切断術(マイルス手術)が行われ,また最近では肛門を温存するISRも行われるようになってきています.
 
 
一方で腺腫や早期癌(深達度がMあるいは早期のSM)に対しては,EMRやESDなどの内視鏡的治療を行います.
 
その中でも内視鏡で切除困難な場合や,あるいは進行癌であっても患者の全身状態などにより,直腸切断術ではリスクが高い場合の姑息的切除として,『経肛門的切除術』を行うことがあります.
 
この術式を行うことは,一般病院ではあまり多くありませんが,手技としては習得しておく必要がありますので,今回ここにまとめておきます.
 
  • 体位は砕石位あるいはジャックナイフで行う.
  • 腫瘍が5〜7時方向に来るのがやりやすい.
  • 腰に枕を敷くと視野が良くなることもある.
  • 前処置は大腸切除に準じる
  • 術前に十分に用手的にあるいは開肛器を用いて拡張しておく.キシロカインゼリーを使用.
  • ローンスター(Lone Star Retractor System)を使用すると良好な視野が得られる.縫合結紮でも代用可能.

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適応
  • 内視鏡で切除困難な場合.ポリープ,早期癌など.
  • 進行癌だが,直腸切断術ではリスクが高い場合の,姑息的切除

 

手技

  • インジゴカルミンを散布すると,腫瘍の境界が明瞭になる.
  • マーキングは5~10mmのマージンを取り,電気メスで行う.

 

  • 電気メスでのマーキングに沿って,全周性に粘膜を切離しておく.
  • 腫瘍の肛門側で,粘膜を切開し筋層を露出させる(ESDの層).
  • Rbの場合は筋層の外にも組織が存在するため,筋層を切除してもすぐに穿通にはならない.
  • 肛門周囲では血管が発達しており,出血しやすい
  • また腫瘍を十分に挙上させ,自動縫合器で切除する方法もある.

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欠損部の縫合閉鎖
  • 止血確認,インプラント予防に洗浄する.
  • 3–0吸収糸(オペポリックス)で縫合閉鎖
  • 狭窄が来ないように,腸管の短軸方向に閉じる
  • 筋層を切除すれば,層層で2層に閉鎖
  • 狭窄が危惧されるなら,粘膜は閉じずに2次治癒を待つことも選択される.
  • スポンゴスタンを留置

 

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引用文献
Netter解剖学アトラス
卒後5年でマスターする消化器標準手術