消化器外科専門医のブログ

消化器外科を専門にする中堅医師です.消化器(食道,胃,大腸,肝臟,胆嚢・胆管系,膵臓)のがんや手術を要する急性疾患,緩和医療などの診療を行っています.特に肝臓外科が専門分野です.日々の学びや,自分の成長につながること,頭のなかで考えたことを中心に記しています.

180503 食道胃接合部癌とは?

『食道胃接合部癌』とは,食道から胃の移行部分に生じた癌のことを指します.
 
縦隔内の臓器である食道に発生した『食道癌』と,
腹腔内にできた『胃癌』とでは,手術方法をはじめとした治療方法が大きく異なります.
 
そこで以前から,『食道胃接合部癌』を『食道癌』とするか,
『胃癌』とするかという議論がありました.
 
まだどう扱うかという明確なコンセンサスは出ていないのですが,
現状をまとめておきます.
 
 
日本では『西分類』に基づいて診療を行います.
 
【西分類】
 
 
 
食道と胃の粘膜の移行部(EGJ)から上下2cmの範囲を,『食道胃接合部領域』と定義しており,
この部分に中心を持つ腺癌,扁平上皮癌を,『食道胃接合部癌』と呼びます.
 
 
一方で欧米では『Siewert分類』があり,こちらはEGJから上下5cmの領域を食道胃接合部癌とし,
以下の図のようにTypeⅠ,Ⅱ,Ⅲとさらに分けています.
 
【Siewert分類】
 
 
西分類の食道胃接合部癌は大部分が,TypeⅡに分類されることになります.
 
 
 
 
前述しましたが,食道胃接合部癌は
『切除方法』と『リンパ節郭清の範囲』に関するコンセンサスがない
という問題がありました.
 
 
そこで,長径4cm以下の食道胃接合部癌に対して全国調査が行われ,それをもとにアルゴリズムが作成されました.
 
 
食道胃接合部癌に対するリンパ節郭清アルゴリズム(胃癌治療ガイドライン第 4 版より 金原出版)
 
 
腫瘍の局在によって,リンパ節郭清は
 
・胃優位(GE,G)⇒ No. 4, 5, 6への転移は少なく,郭清を不要とする.
・食道優位(E, EG, E=G) ⇒ 腺癌では下縦隔の郭清を要し,一方で扁平上皮癌では上,中,下縦隔の郭清を行う.
 
ことが提唱されています.
 
 
また食道・胃の切除範囲は
 
・胃全摘術(+下部食道切除)
・噴門側胃切除術(+下部食道切除)
・食道切除・胃上部切除
 
のいずれかが選択される,と幅広い記述となっています.
 
実際のところ同領域の扁平上皮癌は,食道癌として扱われていることが多く,
右開胸で食道亜全摘などが行われているようです.
 
EGJから腫瘍肛側端が4cmまでであれば、#4、#5、#6へのリンパ節転移割合はかなり低く、
郭清のための胃全摘は不要と考えることができるので,
噴門側胃切除術も選択肢に入ると述べられていました.
 
 
浸潤が胃優位であれば、縦隔の郭清は不要ですので、胃全摘、あるいは噴門側胃切除が選択されます。
 
一方で浸潤が食道優位であれば縦隔郭清が必要なのですが、
扁平上皮癌では上縦隔まで郭清するので、右開胸となります。
腺癌の場合では、下縦隔までの郭清ですので、腹腔からの縦隔郭清でも対応できます。
 
その場合、食道外科医なら開胸を選ぶでしょうし、腹部外科医であれば開腹を選ぶことが多いと思われます。
 
縦隔郭清の臨床試験の結果がどう出るかによって、今後の方針が決められるでしょう。
 
どちらも予後や合併症などの成績が大差がないのであれば,
その外科医の得意とする方法を取ればいいでしょうし,
 
明らかな成績の差がでるのであれば,
良い成績の術式を取ることになります.
 
結果が出るのはしばらく先になりますが,
注目してみたいと思います.