消化器外科専門医のブログ

消化器外科を専門にする中堅医師です.消化器(食道,胃,大腸,肝臟,胆嚢・胆管系,膵臓)のがんや手術を要する急性疾患,緩和医療などの診療を行っています.特に肝臓外科が専門分野です.日々の学びや,自分の成長につながること,頭のなかで考えたことを中心に記しています.

180517 胃癌の術後補助化学療法 〜胃癌治療ガイドライン2018年改定より〜

胃癌の5年生存率を示します.
 
全症例:74.5%
ステージ1:98.1%
ステージ2:66.4%
ステージ3:47.3%
ステージ4:7.3%
 
当然ですが,癌のステージが上がるにつれて,術後の再発が増え生存率が下がります.
そこで再発率の高い患者には,再発予防のための抗癌剤治療(補助化学療法)を行うことがあります.
 
胃癌の補助化学療法は,2006年に行われた臨床試験(ACTS-GC試験)でS-1の有効性が確認され,日本での標準治療となりました.
 
5年無再発生存期間 65.4% vs. 53.1% (HR 0.653)
5年生存率 71.7% vs. 61.1% (HR0.669)
 
 
また2012年に韓国で行われた臨床試験(CLASSIC試験)では,カペシタビン+オキサリプラチン(CapeOX)の有効性が証明されました.
 
 
3年無再発生存期間 74% vs. 59% (HR 0.56)
5年生存率 78% vs. 69% (HR 0.66)
 
これを踏まえて,2015年から日本でも胃癌の補助化学療法にオキサリプラチンが承認されました.
 
 
現在のガイドラインでは,
StageⅡ,ⅢA,ⅢB症例で,根治A,B手術を受けた患者に対して,補助化学療法を推奨しています.
 
・StegeⅡの場合はS-1単独療法を推奨する.
・StageⅢの場合は患者ごとにリスクベネフィットバランスを考慮し,S-1単独療法またはCapeOX療法などのオキサリプラチン併用療法を選択することを推奨する.
 
現時点では,S-1療法とCapeOXやSOXを直接比較した試験がないため,患者ごとにどの治療を行うかは,明確な基準がないのが現状です.
 
様々な解析などによって推測されているのは
・StageⅡではS-1が良好であり,S-1単剤でよい.
・分化型にはCapeOX,未分化型にはS-1が有効と言える.
・StageⅢは予後不良であり,オキサリプラチンの上乗せ効果を期待して,症例を選んでCapeOXやSOXを考慮する.
 
オキサリプラチンにより末梢神経障害やアレルギーが起こることがあり,またカペシタビンにより手足症候群のリスクがあります.
 
判断は簡単ではありませんが,少しでも再発リスクを抑えたいと願うのは,医者の立場からも,患者さんの立場からも,当然のことです.
 
日常生活を守りつつ,少しでも副作用から開放されるように,慎重に見守る必要があります.