消化器外科専門医のブログ

消化器外科を専門にする中堅医師です.消化器(食道,胃,大腸,肝臟,胆嚢・胆管系,膵臓)のがんや手術を要する急性疾患,緩和医療などの診療を行っています.特に肝臓外科が専門分野です.日々の学びや,自分の成長につながること,頭のなかで考えたことを中心に記しています.

151113 下大静脈腫瘍栓 つづき

前回に引き続き,下大静脈腫瘍栓に関する内容です.

腎細胞癌の下大静脈腫瘍栓に関する特徴ついてまとめます.

  

・腎細胞癌は静脈腫瘍栓を形成しやすい

  • 腎静脈に30〜40%
  • 下大静脈に達するのが4〜10%
  • 右心房に達するのが1%と言われる

 

・静脈腫瘍栓を伴う腎細胞癌は、一般的な治療である抗癌剤,分子標的薬,放射線治療,などは効果がないことがわかっている.

 

・手術は減量手術に一定の効果があることや,完全切除で長期生存例があることが報告されている.

 

・無治療だと腫瘍栓の飛散により,命にかかわる合併症を起こし得る.

  • 肺梗塞
  • 心不全
  • 肝静脈根部の圧迫によるBudd-Chiari症候群からの肝不全

 

・手術により長期生存が見込める症例

  1. リンパ節転移なし
  2. 遠隔転移なし
  3. 完全切除可能
 
 
・術式選択のために評価すべきポイント
  1. 先進部の高さ:横隔膜を超えるか?右心房の開放,人工心肺の必要性.
  2. 先端の性状:可動性の有無.操作中に先進部が飛んでしまう可能性があれば,人工心肺を考慮する必要.
  3. 腎細胞癌の進展:そもそも完全切除可能か?
  4. 血管内の腫瘍栓の癒着など:下大静脈の人工血管置換の必要性など.

 

参考文献 手術 Vol.67 No.13 December 2013