消化器外科専門医のブログ

消化器外科を専門にする中堅医師です.消化器(食道,胃,大腸,肝臟,胆嚢・胆管系,膵臓)のがんや手術を要する急性疾患,緩和医療などの診療を行っています.特に肝臓外科が専門分野です.日々の学びや,自分の成長につながること,頭のなかで考えたことを中心に記しています.

151118 尾状葉部分切除(下大静脈を圧排する2cm大の肝細胞癌)

尾状葉(S1)はあまり目にする機会が多くなく、

肝静脈の裏側というわかりにくい場所のため、

その解剖はなかなかとっつきにくいものです。 

 

 尾状葉切除前               

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切除後

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引用:肝臓外科の要点と盲点 20. 背方からのS1切除

  

しかし,短肝静脈やアランチウス管はよく扱いますが,
短肝静脈は尾状葉からつながっていますし、
アランチウス管は外側区域と尾状葉の間を走ります。
 
また右葉切除、左葉切除の際に尾状葉を合併切除するにも、
その解剖を熟知しておく必要があります。
 
今回、尾状葉の左側、spiegel葉の肝細胞癌に対する
肝部分切除を経験しましたので、
特に視野展開に注目して記録したいと思います。
 
 

まず肝外側区域を脱転,授動した後に,尾状葉spiegel葉の前面を露出し,

腫瘍の位置関係を把握します.
 
体格は小柄であり,肝臓も比較的小さく,良好な視野が得られました.
 
 
左冠状間膜,三角間膜を切離した肝外側区域を持ってます.
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外側区域をレバーハーケンで腹側に挙上し,
Spiegel葉の前面を露出させます.
小網はすでに切開してあり,画像では見えにくいですが,
Spiegel葉の頭側半分を占める腫瘍が,わずかに表面に白く見えています.
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尾状葉を持ち上げたところです.
裏面に下大静脈が見えます.
この間,尾状葉の背側には短肝静脈があるので
ここからは慎重な操作を要します.
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この後,Spiegel葉の右縁でArantius管を剥離・同定し,
門脈合流部近くで結紮,切離しました.
左肝静脈側の結紮糸は切らずに支持糸として利用しました.
 
良好な視野が保たれていたため,
そのままの視野で短肝静脈を処理しながら,肝離断を行います.
Spiegel葉の尾側半分には腫瘍がいないため,
支持糸を標本側に2針,残存側にも1針かけて牽引しました.
 
前面で実質切離を進めながら,背側の短肝静脈を結紮切離していくと,
視野が少しずつ上方に広がっていきました.
腫瘍も無理に圧迫すること無く,切離を完了できました.
 
術前画像では腫瘍が下大静脈を強く圧迫していたのですが,
やはり肝細胞癌には被膜があるため,
下大静脈への直接浸潤はなく,癒着も全くありませんでした.
 
腫瘍がもっと尾状葉の尾側にせり出すような位置であれば,
短肝静脈の処理が難しかったかもしれません.
その場合は肝右葉を脱転し,尾状葉の右側から短肝静脈を処理しつつ,
尾状葉を授動することになると思われます.
 
 
今回の手術で,尾状葉の解剖の理解が進みました.
特に左葉切除のラインで尾状葉を合併切除するラインと,
温存するラインのイメージが不十分でしたが,
今回ではっきりと理解,把握することができました.
 
手術にとって最も大事なのは,やはり解剖だと思います.
今回のように,知識が有機的につながっていくように
学び続けていきたいです.