消化器外科専門医のブログ

消化器外科を専門にする中堅医師です.消化器(食道,胃,大腸,肝臟,胆嚢・胆管系,膵臓)のがんや手術を要する急性疾患,緩和医療などの診療を行っています.特に肝臓外科が専門分野です.日々の学びや,自分の成長につながること,頭のなかで考えたことを中心に記しています.

151124 抗がん剤による吐き気の予防

今日は抗がん剤についてです.

抗癌剤の副作用として,まず思い浮かべることに

『吐き気』や,『実際に吐いてとてもしんどそう』

というのがあるかと思います.

 

実際によくテレビに出てくるシーンでは,

抗がん剤=吐いて食べられない

とワンセットになっています.

こんなに吐いている患者に,今どき治療は続けないだろう

と苦笑しながら我々は見ているのですが,

いつまでもこんなシーンが放送されていますから,一般のかたの印象は今もこのようなものであると思います.

 

では実際のところはどうでしょうか?

確かに,特に初めての抗癌剤治療の時に,

吐き気や嘔吐が強く出てしまうことがあります.

しかし原則的に『吐き気止め』を予防的に投与しますので,

そのようなことは多くありません.

 

下の図のように,抗がん剤によって起こる吐き気や嘔吐が

どのような仕組みで起こるのかは,

かなりのところまでわかってきました.

 

 

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引用 制吐薬 適正使用ガイドライン 2010年5月

 

仕組みがわかると,対応ができるもので,

それぞれの吐き気の原因に対して,様々な吐き気止めが出ています.

 

また同様に,どの抗がん剤をどのように,どの程度使えば

どれくらいの吐き気が出るかも,これまでのデータや経験の蓄積で

わかってきています.

 

ですので,どの癌に対して,どの抗がん剤による治療をするかによって,

あらかじめ『どの吐き気止め』を使うかも,実は決まってきているのです.

 

それが上記の図も引用した,

制吐薬 適正使用ガイドライン 2010年5月

です.

 

これまではそれぞれの医師が

経験と感覚で行うことが多かった,吐き気止めの使い方が変わり,

平たく言えば『しっかりと』吐き気止めが使われるようになっています.

 

今は抗がん剤の吐き気がしんどくて,

とてもご飯が食べられないので入院する,

といったことはほとんど無いようになりました.

 

われわれ医師は薬剤の進歩に遅れないために,

普段の勉強が必須であることを,ひしひしと感じています.

 

次回はこのガイドラインに沿って、

より詳しい内容についてまとめようと思います。