消化器外科専門医のブログ

消化器外科を専門にする中堅医師です.消化器(食道,胃,大腸,肝臟,胆嚢・胆管系,膵臓)のがんや手術を要する急性疾患,緩和医療などの診療を行っています.特に肝臓外科が専門分野です.日々の学びや,自分の成長につながること,頭のなかで考えたことを中心に記しています.

130918 大腸癌の同時性肝転移(巨大、単発)に腹水を伴う症例

進行S状結腸癌で通過障害はなく、肝右葉の広範囲を占めるような20cm大の転移性病変を伴う症例です。同時切除予定としましたが、術前の精査でダグラス窩に腹水が見られました。明らかな腹膜播種結節はなさそうです。

 

このような、「大腸癌+切除可能肝転移+腹膜播種の疑い」といった症例に対して、どのような治療を選択するのがよいでしょうか。

 

2010年大腸癌治療ガイドラインによると、

“限局性播種(P1,P2)で,他に切除不能な遠隔転移がなく,過大侵襲とならない切除であれば,原発巣切除と同時に腹膜播種巣を切除することが望ましい”

とされています。

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これに従えば、転移巣が切除可能であり、腹膜播種巣が限局していて切除可能であれば、全て切除することになります。

 

しかしこのガイドラインにも記載があるように,明確なエビデンスは乏しく常に推奨できるものではありません。

背景には、「大腸癌においてはすべての癌巣の切除が治癒への唯一の手段である」という考えがあります。播種巣切除による予後改善や長期生存例も現在までいくつか報告されてはいますが、個々の症例で方針を検討するべきでしょう。

 

ちなみにこの症例は、70代後半と高齢であり、また巨大な肝転移巣は十二指腸に接しており直接浸潤の可能性も否定できません。

方針決定のために、審査腹腔鏡で腹膜播種巣の有無を診断するのも、ひとつの選択肢なのかもしれません。

ただいずれにせよ、閉塞回避のためにS状結腸の切除は避けられないので、結局は開腹して観察し、腹膜播種巣が切除可能か判断し、可能であれば肝転移巣が切除可能か判断する、というところに落ち着くように思います。