消化器外科専門医のブログ

消化器外科を専門にする中堅医師です.消化器(食道,胃,大腸,肝臟,胆嚢・胆管系,膵臓)のがんや手術を要する急性疾患,緩和医療などの診療を行っています.特に肝臓外科が専門分野です.日々の学びや,自分の成長につながること,頭のなかで考えたことを中心に記しています.

130915 急性膵炎の診断と治療 ERCP関連を中心に

先日,肝門部胆管癌による閉塞性黄疸に対して行ったERCP (ENBD)後に,急性膵炎を発症し,重症化しました.幸い良好な経過でしたが,数日は強い腹痛を訴えていました.復習のため急性膵炎のガイドラインを中心に,まとめておきます.

  • ERCPの合併症の中で,急性膵炎の割合は76%と最も高い
  • 膵炎の中では1位アルコール性37.3%,2位胆石性23.8%,3位特発性22.6%についで4位ERCP後5.0%と高い
  • ERCP後,24時間以降も持続する腹痛(背部に放散する心窩部痛)を伴い,アミラーゼが高いこと(2~5倍以上)がひとつの基準.一過性の腹痛,アミラーゼの上昇はよく見られるので持続時間が重要となる.

※ アミラーゼ,リパーゼの値は診断に有効だが,重症度とは相関しない.CRP(48時間以降)がよく相関する

1 急性膵炎の診断基準 

① 上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある 

② 血中,尿中あるいは腹水中に膵酵素の上昇がある 

③ 画像で膵に急性膵炎に伴う異常がある 

上記 3 項目中 2 項目以上を満たし,他の膵疾患及び急性腹症を除外したものを急性膵

炎とする。ただし慢性膵炎の急性発症は急性膵炎に含める。 

 注:膵酵素は膵特異性の高いもの(リパーゼやp-amylase など)を測定することが望ましい。 

また,画像診断は必須ではない

 

2 急性膵炎の重症度判定と重症度スコア 

診断後,直ちに重症度判定を行い,入院後は経時的に繰り返す

予後因子(9項目,各1点)
  1. BE≦-3mEq/d,またはショック(収縮期血圧が 80mmHg 以下)
  2. PaO2≦60 mmHg(room air)または呼吸不全(人工呼吸器を必要とする)
  3. BUN≧40 ㎎/dl(or Cr≧2.0 ㎎/d )または乏尿 (400ml/日)
  4. LDH≧基準値の2倍
  5. 血小板≦10 万/mm3
  6.  Ca≦7.5 ㎎/dl
  7. CRP≧15mg/dl
  8. SIRS 診断基準における陽性項目数≧3 (1) 体温>38℃あるいは<36℃,(2) 脈拍>90 回/分,(3) 呼吸数>20 回/分,あるいは PaCO2<32mmHg,(4) 白血球数>12,000/mm3か<4,000/mm3,又は 10%以上の幼若球出現
  9. 年齢≧70
造影CT Grade

1  炎症の膵外進展範囲

  • 前腎傍腔  →0点
  • 結腸間膜根部→1点
  • 腎下極以遠 →2点

2 膵の造影不良域(膵頭部,膵体部,膵尾部)

  • 各区域に限局あるいは膵の周辺のみ→0点
  • 2つの区域にかかる       →1点
  • 2つの区域全体かそれ以上    →2点

 

重症度の判定

予後因子が3点以上,または造影CT Gradeが2位上を重症とする