消化器外科専門医のブログ

消化器外科を専門にする中堅医師です.消化器(食道,胃,大腸,肝臟,胆嚢・胆管系,膵臓)のがんや手術を要する急性疾患,緩和医療などの診療を行っています.特に肝臓外科が専門分野です.日々の学びや,自分の成長につながること,頭のなかで考えたことを中心に記しています.

150812 肝部分切除の手技のポイント・コツ 後輩の指導の反省点

今日は後輩の肝部分切除に助手として入りました.彼はまだ消化器外科の中での専門分野を決めておらず,今はわれわれ肝胆膵グループを研修のように回っています.今回のような肝部分切除は,他の病院で数例したことがあるとのことでした.

今日の手術はS4の小さな部分切除でしたが,部分切除も意外と難しいところがあります.

腫瘍は1.5cm大の肝細胞癌で,深部が2.5cmとやや深めの部位にありました.触診では触れず,エコーで腫瘍の輪郭を確認して電気メスでマーキングし,さらに切離予定のラインを同様にマーキングします.

 

ここで一つ目のポイントは,腫瘍の位置が深い場合は切離ラインを広く取らないと,深い部分の視野が狭くなってしまう,ということです.

感覚的には当然のことなのですが,特に肝切除に慣れていないと,実際にどの程度広くすればいいのか,わかりません.手技の慣れや習熟度によっても異なります.

彼は,腫瘍から1cm離すように切離線をとったので,われわれならこれでできますが,ちょっと距離が短いかなと感じました.それでもまあ何とかなるだろうと,そのラインで始めました.

 

もう一つのポイントは,進むべき方向に対する,ペアン鉗子の弯曲の向きです.

われわれはペアンクラッシュ法で肝実質の離断を行っています.

手前の横方向の切離ラインから始めるときに,ペアンの先端が真下を向くように使います.この位置では切離方向の弯曲と,ペアンの弯曲の向きが反対になるということです.言葉だけで説明するのは難しいですね.

要は手前からの切離方向が,意識しないと浅い方向に向いてしまうので,初めは真下に進むような意識で調度よいということです.続いての横の切離ラインはそのまま真っすぐ下に掘り進むのですが,左縁(向かって右)のラインは順手で,右縁のラインは野球で言う逆シングルのような,逆手になります.この辺りが,肝切除の手の動きの独特な部分のひとつですね.

切除を始める前に,そのあたりの動きの習熟の度合いを確認していなかったのが,今回の反省点です.やはり浅い方向にすすんでしまい,腫瘍にあたり被膜を露出させることになりました.肝細胞癌ですので,腫瘍の被膜を破らなければ,局所再発の危険性は高くなりませんが,意図して露出させるのと,意図せず露出してしまうのは,意味が異なります.

あらためて彼と確認,反省をします.

最後にもうひとつ,浅くなった原因があります.第2助手として吸引と術野の確保の役割でしたが,手前の視野を取るために,肝実質を手前に牽引していました.特に切除し始めは出血で視野が取れないので,そうするのですが,引っ張る分,真下に進んだとしても実際には少し進行方向に進むのです.そのことも伝えていたのですが,どこまで理解,把握できていたのか,という問題なので,これも反省点になりました.

 

肝臓の手技の経験がまだ少ない先生たちには,今日のように急遽術者になった時に備えて,普段から基本的な手技の指導と練習,難しい手術の進め方,攻め方を教えること,出血などのトラブルシューティング,を徹底させる必要がありますね.

われわれ指導医も,研修する若い先生たちも,お互いに忙しく昼間の勤務時間内にゆっくりと教えることはなかなかできないので,一緒に手術に入ったときに人の手術を見て,同時に教えたり,常に彼らの状況,習熟度などを把握するようにします.

 

 本日の教訓

・肝部分切除の手技のポイント

①切離マージンの距離は腫瘍の深さによって変わってくる.イメージすることと,その点を意識して復習することで,自分の経験とする.

②ペアン鉗子の方向はグラブさばきの要領で.切ろうとしている場所によっておおよそ決まっているので,さばき方を体で覚えておく.

③肝実質や腫瘍を牽引すると切離ラインが変わってしまうことがあるので,常に牽引の強さと方向を意識し,時々牽引をゆるめて,どの方向に進んでいるのか確認する.

 

・機会やチャンスはいつくるかわからない.きたるべき時に備えて,日頃から準備しておくことが大事.

・それを若い先生たちに伝えておく立場にあることを,あらためて認識しておく.