消化器外科専門医のブログ

消化器外科を専門にする中堅医師です.消化器(食道,胃,大腸,肝臟,胆嚢・胆管系,膵臓)のがんや手術を要する急性疾患,緩和医療などの診療を行っています.特に肝臓外科が専門分野です.日々の学びや,自分の成長につながること,頭のなかで考えたことを中心に記しています.

150819 結紮の上達のために環境を整える

最近になってようやく,『結紮』に対する不安やプレッシャーがなくなってきたように思います.

結紮の手技は外科医にとって,かなり基本的なものであり,それこそ1年目から指導され,ずっと付きまとうものです.そして個人差も出てきます.

一般の消化器外科においては,エネルギーデバイスの発達により,糸で結紮する機会がずいぶんと少なくなったこともあり,重要性は減りつつあるのですが,こと肝臓外科医においては,結紮の重要性と,必要とされる技術が非常に高いという特徴があります.当科ではペアンクラッシュ法で実質切離を行っていますので,細い脈管を何十本と結紮します.テンションをかけるとちぎれて出血や胆汁漏につながりますし,何しろ多いのでもたついていると,どんどん時間が過ぎていき,手術のリズムも悪くなります.

肝臓を専門にすることになった時に,消化器外科医としてそこそこ経験を積んでいましたが,肝切離の結紮に関しては,先輩方の結紮の技術を見て,不安で仕方がなかったことを思い出します.

そこを上達するには,ただひたすら結紮の鍛錬を毎日,飽きることなく繰り返すしかありません.わかってはいるのですが,なかなか続かず,上達が思うようにいかずもどかしい時期もありました.

そこで結紮の練習を続けるために考えたのは,環境を整えることでした.言ってみればとても単純なことですが,いつでも結紮の糸を使えるように,肌身離さず身につけておくのです.

手術に使うバイクリルやプロリンは,すぐに消費して無くなってしまいますし,いくら持っていても足りません.それに意外とかさばるので,白衣のポケットでもじゃまになります.無くなると当然練習ができませんので,習慣化からまた遠ざかってしまうのです.

そんなジレンマの中,ある先輩が釣り糸を練習に使っているのを見つけ,試しに借りてやってみると,ちょうど4-0プロリンと同じような感覚で,いい感じです.50mのロールタイプなので全然かさばりませんし,なかなか無くならないうえに,手で簡単に切れるので使いやすく,いつでもどこでも持ち運べます.

今でも使っていますが,白衣のポケットにひとつ,カバンにひとつ,机には2つ,車の中にもひとつ,家にもひとつ置いてあります.こうすることでようやく,いつでもどこでも結紮ができる環境が整いました.

カンファレンスを聞きながら,朝から20分以上できますし,麻酔の導入や抜管の待ち時間にもすかさず練習します.これで平日は毎日練習の時間を確保できますし,休みの日は車の中においてあるので,信号待ちのたびにハンドルにくくりつけています.もう日常の風景なので,家族も慣れっこです(笑).

ここまできますと,完全に習慣になっていますし,やらないとなんだか気持ち悪いです.それこそ歯磨きと同じくらいの位置づけになっています.

まだまだ達人レベルの先生には,遠く及ばないのですが,まずは「息を吸って吐くように」結紮できるところまで到達したいと思います.

 

結紮技術のコツはまだまだたくさんあるのですが,今日は環境を整えることが重要でした,ということをお伝えしました.

 

本日の教訓

・基本手技の上達のためには,野球選手が毎日素振りを欠かさないように,繰り返し繰り返し,体で覚えるしかない.

・習慣化するためには,強い意志や気持ちだけでは続かなくて,環境を整えることがポイントである.