消化器外科専門医のブログ

消化器外科を専門にする中堅医師です.消化器(食道,胃,大腸,肝臟,胆嚢・胆管系,膵臓)のがんや手術を要する急性疾患,緩和医療などの診療を行っています.特に肝臓外科が専門分野です.日々の学びや,自分の成長につながること,頭のなかで考えたことを中心に記しています.

150907 肝外側区域切除 左肝静脈の縫合閉鎖

今日は肝切除のうち、外側区域切除についてです。 

肝外側区域切除は左葉の外側区域、クイノーの区域分類でいう、S2、3を切除する術式で、具体的には門脈臍部に沿って切除し、左肝静脈は根部近くで切離します。系統的肝切除の中では,容易な術式とされており,実際に保険収載上も他の区域切除とは分けられています.

ですが,肝切除に必要な大事な手技がひと通り含まれています。肝の脱転・授動、S2,S3グリソンの処理や左肝静脈の縫合閉鎖など,大変勉強になる手術です.ですので,初心者がまずやる手術,という位置づけではなく,この術式で基本的な肝切除の操作,動作,手技を身につける,というのが正しい認識でしょう.

 

私自身は肝切除はまだ経験が浅く,部分切除は数例,外側区域切除は開腹1例,腹腔鏡下切除1例,S8亜区域切除が1例と,全部でもまだ10例は行ってません.

そんな私ですが,先日行いました肝外側区域切除で,学んだことや気づいたことを書きたいと思います.

 

その手術で具体的に改めて学んだのは、癒着剥離や左手での外側区域の把持の方法,視野の作り方,グリソン鞘の処理太い脈管を安全に確保する方法左肝静脈の連続縫合,など多岐にわたりますが,その中で今回は左肝静脈の連続縫合閉鎖について,取り上げます.

今後,その他の手技などについても書いていきます.

 

左肝静脈の縫合閉鎖(外側区域の離断がほぼ終了しており,あとは左肝静脈のみとしておく)

手順:

①切離予定線の中枢側に血管鉗子をかけ,最後までラチェットをかける.

→縫い代が確保できるときは,切離ラインをどこにするか,その縫い代の幅中肝静脈との距離を考えて,鉗子をかける.

標本側の血管鉗子は、縫い代の距離に余裕があればかけます。かけない場合はメーヨーで切るときに、指で血管を押さえて出血を防げば問題ありません。

手前(尾側)の端に5-0プロリン(片端針)をかけ,針を切らないでラバーのついたムッシュで把持する.

→これは支持糸の役割とともに,鉗子が万一外れるようなトラブルがあった時に牽引できること,またこれを利用して縫合閉鎖や補強が行えるというメリットが有りますので,ぜひやるべきでしょう.

③奥(頭側)に同様に5-0プロリン(片端針)をかける.これは縫合のための針であり,はじめに数回結紮してもらい,約1mmのピッチとバイトで連続縫合する.

→これは簡単に考えていましたが,思ったよりも難しいというのが実感です.細かな操作を長い持針器と鑷子で操作するので,思うように針を持てず,心拍動による動きもあり思ったところに運針しにくかったのです.これは想像した感覚とは違うので,練習が必要でしょう.どうやって練習できるか,ちょっと考えてみます。いいアイデアが出れば追加で書きます.

③手前までくれば,問題がなければ手前の支持糸は外す.血管鉗子も外し,出血がないことを確認して,頭側へ向かってさらに連続縫合する.初めの刺入部をこえるまで進め,結紮する.

→返りはくる時より深く針をかければより高い止血が得られますが,深すぎると狭窄の危険性が増すので注意が必要です.どの工程でも言えることですが,その一点に集中しながらも,周辺のことを察知,観察できる広い視野を持つことが,外科医には必要です(手術のたびに毎回反省しているので,自戒の意味を込めています・・).

 

これらの行程を,基本に忠実に,確実にかつ素早く行う必要があるので,行程を十分理解して上で,十分なイメージをもち,実践に臨むべきです.

 

この他には,静脈径が細ければ結紮切離で問題無いですし,縫い代が取れないこともあるのでその場合は,血管鉗子ごと針糸をかけて,強く締めずに頭側から尾側まで縫合し,鉗子を外すと同時に締める,そして頭側へと進める方法があります.それについてはまたあらためて書きたいと思います.